【年金数理人の所見】
1.財政再計算の定義
(1)財政再計算とは、掛金額の算定基礎となる基礎率を過去の実績に基づいて再検討し、その結果により将来にわたって財政の均衡を保つことができるように掛金額の見直しを行うものである。
(2)今回の財政再計算は、厚生省年金局長通知「国民年金基金における財政再計算に伴う掛金の計算に関する取扱いについて(平成6年12月22日年発第6383号)」(以下「再計算通知」という。)に基づき、平成11年3月31日を基準時点として、第2回財政再計算を行ったものである。
2.今回の財政再計算の背景
(1)前回財政再計算以降の年金財政状況
表1は基金全体及び当基金の年金財政の推移をみたものである。前回の財政再計算以降厳しい運用環境が続いていたため、基金全体では、平成10年度末で責任準備金に対して1%程度の実質赤字を計上している。また、当基金でも、平成10年度末で実質赤字を計上している。この実質赤字については、発足して間もないので本格的に給付が始まるのはまだ先であり、将来の年金支給に支障をきたすような規模ではない。
表1 国民年金基金の年金財政の推移 (単位:百万円)
(注)資産評価方法は、平成8年度までは簿価、9年度以降は時価である。
一方、平成9年度以降は資産の評価方法が簿価から時価へと移行し、決算は年度末における運用環境の影響を受けやすくなっている。今回は時価評価への移行後初めての財政再計算でもあり、短期的な時価の変動にも極力対応できるようにしつつ、制度の長期的安定を図るための対策を講ずることとしている。
(2)再計算通知の改正
第2回財政再計算にあたって、再計算通知が一部改正されているが、これは、基金の財政運営について一律の規制となっていたものを緩和しようとするものである。予定利率はこれまでは具体的数値が示されていたが、新規加入の予定利率を4.0%以下とすること等の一定の条件で弾力化された。死亡率についても標準の死亡率が示されており、基金において合理的に定めることとされている。また、死亡率が男女別に定められており、男女別建ての掛金設定ができることになった。
3.財政再計算結果について
(1)今回の財政再計算の方針については、
①予定利率
新規加入の予定利率については再計算通知で4%以下とすることとされているが、国民年金本体の財政再計算の運用利回りが4%であることや国民年金基金のこれまでの運用実績等を勘案して4%としている。一方、既加入の予定利率については、10年度決算結果や予定利率を変更した場合の影響等を総合的に検討して、現行どおりの予定利率としている。
表2 国民年金基金の運用利回りの推移
(単位:%)
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5年度
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6年度
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7年度
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8年度
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9年度
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10年度
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運用利回り
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5.40
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3.88
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5.56
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4.44
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7.24
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3.22
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(注)8年度までは簿価ベース利回り、9年度以降は時価ベース利回りである。
②予定死亡率
再計算通知では、男女別に2030年の将来生命表を基礎とした死亡率が示されているが、直近の完全生命表と比較してもかなり安全をみた水準となっていることから、この死亡率をそのまま用いることとしている。また、男女間で平均余命を比較すると、60歳の場合で5年程度の差がありこの差は拡大傾向にある。このため、今回の財政再計算に合わせて、新規加入については死亡率について中立的になるよう、男女別建ての掛金としている。
(2)掛金の改定
平成12年4月以降の新規加入について予定利率を4%として掛金を算定した結果は様式 第4号のとおりであるが、掛金の引上げ幅は40歳で加入した場合、A型では男性が7% 、女性が15%となっており、B型では男性が2%、女性が18%となっている。
(3)給付の改定
2口目以降の加入を促進するため、45歳を超える者の1口当たり年金月額を5千円に引 き下げている。また、予定利率の変更に伴い、加入月加算額、55歳以上で加入した者 の年金額、給付率及び遺族一時金算定のための乗率を改定している。
(4)増減口の取扱い
増口については、平成11年度中に基金に申し出た場合、平成12年4月1日から現行掛 金での増口ができることにしている。一方、減口については、予定利率が異なる複数 の掛金単位ある場合、減口後に残った掛金単位がバランスするようにすべきとの考え 方から、新たに加入・増口した掛金単位について一定の条件を設けることにしている 。
4.今後の留意事項
年金財政の安定を図るためには、新規加入および増口の獲得により平均予定利率を引き下 げるのが重要である。また、基金の年金給付は、死亡するまで終身にわたって支給される 確定給付型の年金であり、加入員の老後生活に資するため、今後とも新規加入及び増口の 獲得に積極的に取り組まれたい。